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CM分離発注のリスクと対策

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CM分離発注のリスクとリスク対策

依頼主にとって、利点が多いCM分離発注。反面、建設会社が存在しない事で、建設会社が担っていた責任、役割が分散され、
一部のリスクが依頼主にかかるという欠点があるのも事実。CM分離発注方式におけるリスクへの理解が不可欠です。

CM分離発注方式の
5つの利点

CM separate order
5 advantages

これらの利点を確実にする為には、依頼者自身が、CM分離発注方式特有のリスクがあること、そしてリスクへの備えを理解する必要があります。その多くは、工事中に想定されるものですが、リスクとリスク対策を説明します。

CM分離発注の
リスクとリスク対策

CM separate order
risk measures

リスク /case1

工事中不測の事態

工事中不測の事態

発注方式の違いに係わらず、建築工事には、工事中の火災、盗難、風水災等により損害を被る可能性があります。いくら、警戒をしていても、想定を超える風水害、悪意のある放火や盗難を防ぐには限界があります。一括発注では、建物の引渡しをするまでは、建設会社に所有権がありますが、CM分離発注は、工事の進捗により契約が履行されていくため、理論上、部分的に依頼主に所有権が移っていく事になります。

例えば、大工工事が完了し、次に仕上げ工事にかかろうとした時に、火災により焼失してしまうと、依頼主は、完了した大工工事までの損害を被ってしまいます。こうしたリスクへの備えは、保険で備えることになります。一括発注であってもCM分離発注であっても、ほぼ100%の工事で、保険でリスクに備えて工事を行っています。ただし、工事中における地震による損壊あるいは火災、津波、噴火による損害は、保険で対応できないケースもあり、別の対策を講じる必要があります。

リスク /case2

責任の所在が不明(軽微な傷や破損)

責任の所在が不明

建築工事現場には、様々な職種の人が作業を行います。木造住宅を例に挙げると、おおまかに、基礎から始まり、大工、屋根、外壁、仕上げ、設備の取り付けを経て建物が完成します。仕上がった部分には傷がつかないように、養生しています。最後に養生を撤去しますが、稀に、仕上げに傷がついている事があります。人が作業をしますので、誤って物を落したり、気付かないうちに、傷をつけてしまった、というのはありうる事です。傷の原因が明確であれば、傷をつけた人に責任をとってもらえば良いですが、原因がわからない、つまり、責任の所在が不明の傷は、建築工事ではつきもので、100%防ぐのは大変難しいです。

工事を行う専門業者は、傷をつけたり、傷をつけられたりすることを前提に価格を決定していません。中には不測の事態に備えている専門業者もありますが、もし、全ての専門業者が、これらの可能性を考慮して、価格を決定すると、それだけ経費を計上しますので、建築コストは増えていきます。では、これらのリスクは誰が負っているのか? 一括発注では建設会社です。建設会社がこれらの対策費を計上した上で、価格を決定し、依頼主と請負契約をします。この場合、傷がなく補修や取り換えの必要がなかったとしても、依頼主が支払う金額が変わる事はありません。

それに対し、CM分離発注方式では、理論上、依頼主になります。CMrがそのリスクを負うという考え方もありますが、CMrはそれだけの対策費を計上しておく必要がありますので、一括発注と同じことになります。であれば、リスクがある事を前提に、対策費用を予算化しておくという方法が最も効果的です。リスク対策費、あるいはリスク調整費と呼んでいます。予算化ですので、補修等がなければ、支払う必要はありません。

リスク /case3

契約不適合責任の履行

契約不適合責任の履行

2020年4月、請負契約に関する民法が改正されました。ここでは、改正内容の詳しい解説はしませんが、瑕疵担保責任から、契約不適合責任に変わりました。完成した建物が契約内容に適合しないときは、責任を問われるという内容です。法律的に大きな改正と言われていますが、間違った工事を行えばそれを正す。間違った工事により、損害を与えればそれを賠償する。という基本的な責任に変わりは無いと思われます。

ここで問われるのが、専門業者の契約不適合責任の履行能力です。CM分離発注方式を請け負う、専門業者は、小規模な個人事業主から、大きな法人まで、事業規模は様々です。住宅等、小規模な建築工事では、比較的小規模な事業主が多く、契約不適合責任の履行能力に不安があると言われています。

例えば、10万円で防水工事を請負い、間違った工事を行い、漏水事故が発生した。工事を請け負った防水業者は、間違った工事を正すのはもちろんのこと、漏水事故により、建物の品質、性能、又は家財に損害を与えた場合には、その損害を賠償する必要があります。漏水により、内装が汚れてしまった。断熱材が濡れてしまい、性能を満たさなくなった。補修工事が必要になり、補修費用を賠償しなければいけません。50万円のテレビが漏水により、壊れてしまった。10万円の工事で100万円以上の賠償を求められる事もありうるのです。100万円の賠償が出来ればいいのですが、中々そうはいきません。賠償が履行されなければ、依頼主に与える損害は大きいです。ここでは防水工事を例に挙げましたが、全ての工事に同じ問題があります。専門業者の賠償能力を支援する仕組みが必要です。

リスク /case4

CMrの賠償責任能力

CMrの賠償責任能力

専門業者だけではなく、CMrにも賠償責任能力が問われます。CMrの業務に問題があり、それにより損害を与えた時、CMrはその責任を問われます。例えば、依頼主の希望により、設計内容に変更が生じました。CMrは変更内容を専門業者に伝える必要がありますが、その内容を伝えるのを失念してしまった、または、間違えて伝えてしまった。これにより、間違った工事が行われ、補修する必要がでてきたとき、CMrはこれに係る費用について賠償を求められます。CMrを行うのは設計事務所が多いのですが、大部分は小規模事務所です。CMrの賠償能力を支援する仕組みも必要です。

リスク /case5

廃業、倒産、死亡

廃業、倒産、死亡

専門業者は、比較的小規模な事業主が多く、倒産リスクが高いのでは? という心配の声を聞きます。また職人と呼ばれる方々の多くは一人でやっている個人事業主が多く、万が一、事故や病気で工事が続行できない場合どうするの? という声もあります。

しかし、よく考えてください。住宅を例に挙げると、15社前後の専門工事業者が工事を行います。それらの方が、同時に倒産、廃業する、また事故に遭われる可能性は、極めて低いです(大きな天災での可能性は否定できません)。また、建築工事は、専門業者が一斉に工事を始めるわけではなく、着工から竣工に向けて、順番に工事を進めていきます。したがって、万が一、当初契約した専門業者の内、どなたかが工事が出来ない事態になったとき、その専門業者の工事を引き継ぐ他の専門業者に依頼する事で、工事の続行が可能になります。

しかし、当初契約をした専門業者(専門業者A)と同じ金額で、他の専門業者(専門業者B)が工事を引き継いでくれるかはわかりません。更に、出来高で支払いをしていますので、すでに工事が行われた部分については、専門業者Aに対し、支払いが必要になります。

専門業者Aと2,000,000円で契約したとします。出来高で1,000,000円まで工事が完了した時、専門業者Aが工事を続行できない状態になり、専門業者Bに工事の引き継ぎを求めたところ、1,100,000円必要になるとの事。差額の100,000円は誰が負担するのか? CM分離発注では、依頼主になります。これも依頼主のリスクとなりますので、リスク調整費で補填する方法もありますが、金額が大きくなると、大きな負担となります。工事の続行を支援する仕組みが必要です。

ちなみに、一括発注で依頼主と契約した建設会社が倒産、廃業といった事態になるのと、依頼主が被る損害は甚大です。一括発注の場合、依頼主は、完成保証制度を利用できるか事前に確認されるべきです。CMrが業務を遂行できない事態になる事も考えられます。CMrは調達、品質、コスト、スケジュールに係わるマネジメントを行い、依頼主の直営工事を支援する立場です。CMrがいないとCM分離発注は機能しません。万が一の際、CM業務を引き継ぐ、他のCMrに依頼する必要がありますが、専門業者のケースと同じように、依頼主が追加費用を負担するというリスクは拭えません。CMr業務の引継ぎを支援する制度が必要です。

CM発注方式での建設を成功に導くには、リスクの理解と、十分なリスク対策が必要不可欠です。

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